ロイターが行った調査で、今年の全米の住宅価格の動向は、戸建て住宅の不足や一時のモーゲージ利率の上昇などの要因が、価格が高騰している市場をさらに圧迫しているため、この5〜6年間で最もスローペースの上昇になると予測されていることが明らかになりました。

このロイターの調査は、全米の40名ほどのエコノミストや住宅アナリストたちの回答をまとめたものです。米国の中央銀行にあたるFRB (Federal Reserve Board:連邦準備制度理事会) の利率ガイドラインの変更により、今年の利上げは無期限の延長、あるいは利上げなしとしたことによるものだとしています(FRBは昨年後半に、高騰している住宅市場の価格を抑える目的で拙速な利上げを繰り返し、それが価格の高騰を抑えるのではなく、逆に市場をスローダウンさせたことによる反省から)。

これにより、戦後最も長い間成長し続け米国経済に貢献し、米国経済の牽引車の1つであった住宅産業は、もしかすると、今年は米国経済の足を引っ張ることになるかもしれません。

調査によると、今年は米国の住宅価格は4%上昇し、来年以降の数年は年間3%成長するだろうと予測しています。

全米リアルター協会(NAR)のチーフエコノミスト、Dr. ローレンス・ユン氏は、「米国の住宅市場はこの10年間、価格の上昇が続き、それは所得収入の伸びを上回り、その結果が住宅購買力の低下へと繋がっており、住宅を購入できない状況をつくっている」と語り、「これ以上住宅価格は上がらないというポイントまで来ており、今後は極めて穏やかな上昇傾向になるだろう」と続けています。

〝このスローダウン傾向にストップをかけ、需要を喚起する方法は?〟との質問には、25名のうち15名がFRBによる利上げの凍結を1つの手段として挙げています。残りの1/3は、さらなるインフラへの投資や税金の控除などと答えています。

前述のように、FRBが利上げの方針を変更したことにより、昨年後半に7年半ぶりに記録した利率から一転して、今後数年は年利5%を超えないのではないかと予測されています。1月に開催されたFRBの全体会議とそのレポートをまとめた「ベージュブック」と呼ばれる白書にも、今後利上げをするには「忍耐」が必要になると記載されています。

ただ、このFRBによる利率凍結という突然の方針変更が、住宅市場に好材料をもたらすかどうかは疑問です。キャピタルエコノミクス社のエコノミスト、マシュー・ポイントン氏は、「それほどの影響を及ぼさないだろう。なぜなら、利率が下がるということは、景気が後退していることを意味するのだから」と述べています。

10年ほど前には、リセッションで全米の住宅価格が1/3以上も下落しましたが、この10年間でそのロスをリカバーしています。

大恐慌後のほぼ10年間、米国経済は住宅市場に活況をもたらしてきましたが、しばらく前から住宅のビルダー、建設業者は需要にマッチした戸数、特に一時取得者層向けの戸建て住宅を供給していません。

前述のユン氏は、「全体的に見れば、建設業者は住宅を供給しているが、必要とされる一時取得者層や買い換え層を中心とするクラスへの住宅供給が欠けており、それが在庫数 (inventory:販売可能な物件数) の不足をもたらしている。この在庫数不足が、一時取得者層がマイホームを購入できない状況なのである」と述べています。

既存住宅市場は全米の住宅販売の約90%を占めており、今年は年間530万戸の販売ペースと予想されています。これは、前回の住宅ブームの2005年に記録した700万戸と比較すると大幅な減少に見えますが、年間戸数のバロメーターとしては、500万戸がベンチマークとなっています。

住宅市場が急激に回復することは、S&Pケース・シラー(米国住宅価格指数)の全米20都市のインデックスにおいて、過去8ヶ月平均価格が下がっていることなど、最近の指標を見るかぎり考えられません。

「利率の上昇によって、米国の住宅市場はスローダウンしており、それ以前の価格の高騰が住宅購買力の減少をもたらした」とBMOキャピタルマーケットのシニアエコノミスト、サル・グアティエリ氏は述べ、「もしかすると、最近の利率の凍結により、直近の販売戸数は増加するかもしれないが、長い目で見ると、米国の経済は緩やかな減速傾向にあることから、穏やかな購買力のある市場に向かっていくのではないだろうか」と締めくくっています。

<Source: REUTERS>